憧憬

頭が痛い。

睡眠が不足しているせいだと思う。

感覚が麻痺している。

感情は昂り、沈む。

ここにいたくない。

でもどこにも行きたくない。

人は矛盾を抱えたまま生きていける唯一の生き物だろう。

合理と感情。

相反するもの同士が分かり合うことなくとも、同じ部屋に閉じ込めておくことができる。

合理的に生きていくことで、楽になれると思っていたんだ。

だけど光が強くなるほど影も色濃くなる。

ならば影をなくせるほど照らし出せる強い光が必要だ。

もとい僕には無理だった。

自分が傷つきたくないがゆえの憧れだったからだ。

感情から逃げるために合理というものを都合よく解釈していただけだ。

悟った気になっていた。

達観した気になっていた。

表面だけで理解した気になっていた。

言葉を正しく理解できていなかった。

いざ刃を突き付けられたとき、僕から出てきたものは合理など微塵もなく、情けない感情の塊だけだった。

感情に必死にしがみ付く僕はどれだけ滑稽だろうか。

覚悟すらしていなかったのだ。

合理を振りかざせば、当然僕にも合理が突き付けられる。

そんなときに僕から出てきたものが感情だけなのだ。

やめてくれ。

何を言っているのか。

「彼女の人生を合理的に考えれば、あなたは彼女の人生には必要ありません。」

やめれくれ。

「合理的に考えれば、彼女はあなたに会う必要がないのです。」

やめれくれ。

「合理的に考えれば、彼女はあなたのために時間を割く必要はありません。」

やめれくれ。

「合理的に考えれば、彼女はあたに出逢う必要がなかったのです。」

やめてくれ。

「何故?あなたは合理的に生きたいのでしょう?」

やめれくれ。

「何故?あなたは合理的に生きたいのに、何故彼女を好きになったのですか?」

「何故、彼女のために人生を捧げたいと思っているのですか?」

「何故、今も彼女の幸せを願っているのですか?」

「それがあなたにとっても彼女にとっても合理的なのですか?」

「あなたの合理は感情が演じているにすぎません。」

「あなたの合理は一つの感情なのです。」

ああ、なんということだ。

僕はまた、間違えてしまっていたのか。

矛盾などしていなかった。

そんな高尚なものではなかった。

はじめから感情の奴隷だったのだ。

僕はまた一つ言葉を失った。

「おしゃべりはもう済んだかい?」

とても頭が痛い、沈黙の時間がきたようだ。

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